植栽とは、簡単に言えば植物を植えることをいいます。植物を植えることで建物を引き立たせ、家の価値をもたらせてくれます。
しかし、ただ植えればいいというものではありません。環境や植物の特性を知らないで、「花が綺麗」「形がかっこいい」など見た目だけで選んでしまうと、後々管理や病虫害の発生に悩まされることになりかねません。
そこで、植物がどのような環境を好み、どんな樹形になるのかといった植物の知識を知る必要があります。そうすることで、あなたの家に合った植物を選ぶことが出来、素敵な庭を作ることが出来ます。
ここでは、植栽をするうえで必要な基礎知識について説明します。
樹木の性質を知る
植物がもたらす効果
植物は多くの機能を持っています。その機能を充分いかし、植物の効果をより引き出すためには植物の特性や環境を知る必要があります。植物がもたらす効果には、以下のようなものがあります。
生活にうるおいを与える
植物の存在は、私たちの心をなごませ、うるおいを与えてくれます。
春の新緑、夏の深い緑、秋の、紅葉、冬の落葉、風にそよぐ葉音、触って感じる優しさ、癒やしを感じる花や葉の香り、新鮮な果樹や野菜の美味しさなど人の五感を癒やしてくれます。
空気をきれいにする
植物は光合成により、二酸化炭素を吸収し酸素を出します。また、蒸散作用で夏場は冷気も発生させ冬場は乾燥を防いでくれます。 その他にも、排気ガスなどの汚染物質を葉から取り込んだり、枝・葉に汚染物質を付着させたりする ことで、大気を浄化し空気をきれいにする働きを持っています。
快適な気候を保つ
植物は、木陰を作るとともに葉から水分を蒸散することで、夏季の暑さの緩和や冬季の乾燥をやわらげる効果があり快適な環境与えてくれます。
また、都市のヒートアイランド現象をやわらげる効果や、ビル風などの強風をさえぎる効果もあります。
生き物と共存する
植物を植えることで、鳥や虫たちがやって来きます。この鳥や虫たちが人に癒やしをあたえてくれます。
大きな意味で、「生態系の維持」といってよいでしょう。
このように、様々な効果のある植物をより効果的に植え付けることで快適な暮らしを送ることが出来ます。
植物の分類
常緑樹と落葉樹
樹木は、葉の性質から常緑樹と落葉樹に分けられます。
常緑樹とは、秋になっても葉を落とさないで一年中緑色をしている樹木のことをいいます。よくお客様から、葉が落ちるのが嫌だから常緑樹にしてほしいと言われますが、常緑樹がまったく葉を落さないわけではありません。新しい葉が成長すると古い葉を落とします。これは、人間の髪の毛がわからないうちに生え変わっているのと同じです。
常緑樹は、外部からの目隠し効果がありプライバシーを守ることができ、生垣に適しています。
また、オリーブやソヨゴなどはシンボルツリーに適しています。
落葉樹とは、秋以降気温が下がると美しい紅葉をしその後、葉を落とす植物のことをいいます。新芽の優しさ、夏の葉色の濃さ、秋の紅葉、冬の落葉と四季を感じさせてくれます。冬に葉を落とすことから、夏に木陰が、冬に日当たりがほしい場所に適しています。
常緑樹 | カシ・モッコク・ツバキ・シマトネリコ・オリーブ・キンモクセイ・コニファー 、マツなど針葉樹など | |
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落葉樹 | 黄色に落葉する | アオハダ・イタヤガエデ・イチョウ・カツラ・ユリノキ・イタヤカエデ・ポプラ・アジサイ・トサミズキなど |
紅色に落葉する | アカシデ・イロハモモジ・ハウチワカエデ・ハナミズキ・ナツハゼ・ナナカマド・ヒメシャラ・ニシキギ・ドウダンツツジなど |
この他に、葉の形状から広葉樹と針葉樹に分類されます。葉の幅の広い楕円形をしたものが広葉樹で、葉先がとがったものが針葉樹です。ただし、イチョウは例外で針葉樹です。
樹木の大きさによる分類
樹木は大きさにより、高木、中木、低木に分けられます。はっきりした定義はありませんが、一般的に以下のように区分しています。
高木
中木
低木
低木とは、一般に成木で3.0m以下の樹木をいいます。また、植栽時に1.5m以下の樹木のことをいう場合もあります。根元から複数の枝を出すなど主幹が不明瞭な樹木を灌木ともいいます。アベリア、クチナシ、ヒュウガミズキ、アジサイ、ジンチョウゲ、シャリンバイ、ドウダンツツジ、ヒイラギナンテン、アセビ、ツツジ類、コデマリ、ナンテン、ユキヤナギなど
これらをうまく配置することで、素敵な庭を作ることが出来ます。逆に、これらを理解していないで植栽してしまうと、例えば、アプローチ際の樹木が大きくなりすぎて人が通るのに邪魔になってしまったり、隣地際に植えた植物が大きくなりすぎてお隣さんに迷惑をかけてしまったりします。こうなると、せっかく植えた植物を手間をかけて処分しなければならなくなってしまいます。
また、せっかくうまく植栽出来たとしてもその後の管理を怠ると、うっそうとした庭になってしまいます。樹木は、管理(剪定)することで成長をキープし、見栄えの良い庭を維持することが出来ます。
その他に、地被植物(グランドカバー)や草花があります。地被植物(グランドカバー)や草花をうまく配植することで、庭が引きしまり華やかになります。
地被植物(グランドカバー)とは、「地面(グランド)を覆う(カバー)」植物のことで、踏まれても大丈夫な物や日陰でも育つ物、雑草が生えにくくなる物などがあります。また、かわいい花が咲く物や葉がきれいな物まで幅広く色々な植物があります。
草花とは、樹木のように大きくならず、太く堅い幹を持たない植物をいいます。草花には、一年草、二年草、多年草、宿根草があり、花や葉・実などを楽しみます。
一年草
一年草とは、一年で一世代を終える植物のことです。例えば、種を蒔いたその年のうちに発芽し、花が咲き、種をつけ、枯れる植物です。一年草は、一年花を咲かせ、種をつけて枯れた後はもう花を咲かせることはありませんが、次の年にこぼれた種から新しい芽が出る(発芽)こともあります。
二年草
二年草とは、あまり聞きなれないかもしれませんが、種をまいた年は根を広げたり茎や葉を伸ばし、次の年の春や夏に花を咲かせる植物です。「二年生植物」や「越年草」とも呼ばれます。秋に種を蒔いて、次の年の春や夏に花を咲かせる植物も二年草と呼ばれるときがあります。
多年草
多年草とは、種まきや植え付けを行った後、花が咲き、種をつけるというサイクルを2年以上繰り返す植物のことをいいます。「多年生植物」「多年草植物」とも呼ばれます。本来は多年草だけど、環境により冬越しができないなどの理由で一年草扱いという植物もあります。
宿根草
宿根草とは、毎年花を咲かせる草花のことをいい多年草と似ていますが多年草とは違い、冬になったら地上部(葉や茎)が枯れてしまう植物をいいます。そして、翌年暖かくなると再び芽を出し花を咲かせます。冬になると何もなくなってしまって、一見枯れてしまったようにもみえますが、実は生きている、という植物です。
地被植物 | 芝、リュウノヒゲ、ハイビャクシン、フッキソウ、キチジョウソウ、ヒメイワダレソウ、ラミウム、アジュガ、シバザクラ、セイヨウイワナンテン、ダイコンドラ、ヤブラン、ツルニチニチソウなど |
一年草 | イソトマ、インパチェンス、エリゲロン、オキザリス、オシロイバナ、カリブラコア、キンギョソウ、コキア、コスモス、コリウス、ジニア、シレネ、スイートピー、スカビオサ、デルフィニウムなど |
二年草 | エキウム、カスミソウ、ジギタリス、スターチス、ポーチュラカ、ホリホック、ユウギリソウ、ルドベキア、リナリア、ルピナスなど |
多年草、宿根草 | アッツザクラ、アキレア、ゼラニウム、マーガレット、アメリカンブルー、バーベナ、クリスマスローズ、アガパンサス、アスチルベ、アルストロメリア、アルメリア、イブキジャコウソウ、エキナセア、エビネ、エリゲロン、オステオスペルマム、オダマキ、オミナエシ、キク、ギボウシ、ケマンソウ、サルビア、シュウメイギク、スイセン、スズラン、バーバスカムなど |
日当たりを好む陽樹、日陰を好む陰樹
植物の生育に日当たりは重要な要素です。日当たりを好む植物を陽樹、日当たりを嫌い日陰でも育つ植物を陰樹といいます。また、陽樹と陰樹の中間的な性質を持ち適度な日当たりと日陰を好む植物は中庸樹に分類されます。
建物の東・南・西側は日当たりの良い場所になります。
建物の東側は朝日が差し込むため、柔らかな日の光を好む植物(中庸樹~陽樹)が向きます。
南側は一日中日が当たるため、ほとんどの植物が栽培できますが特に陽樹が向きます。
西側は、陽樹が向きますが西日が当たりますので、強い日差しに弱い植物は避けましょう。
建物の北側は、終日日が当たらないため陰樹を選択しましょう。
高・中木 | 低木・地被 | |
陽樹 | アラカシ、ウバメガシ、ウメ、オリーブ、クリ、オリーブ、カイズカイブキ、カナメモチ、カリン、キンモクセイ、グロガネモチ、ケヤキ、サクラ、サルスベリ、サンシュ、シマトネリコ、シモクレン、タイサンボク、トウカエデ、ナンキンハゼ、ハナズオウ、ハナモモ、マサキ、マテバシイ、モッコク、モチノキなど | ウツギ、ウメモドキ、オウバイ、オオムラサキツツジ、キリシマツツジ、ギンバイカ、キンメツゲ、コデマリ、コノテガシワ、サツキツツジ、シャリンバイ、ドウダンツツジ、トキワマンサク、トベラ、ノウゼンカズラ、ハイビャクシン、ハギ、フヨウ、プリペット、ブルーベリー、ボケ、ボックウッド、マメツゲ、レンギョウ、ローズマリーなど |
中庸樹~陽樹 | イロハモモジ、エノキ、カツラ、クヌギ、ゲッケイジュ、コナラ、ジュンベリー、スダジイ、ソヨゴ、ツバキ、トチノキ、ノリウツギ、ハナミズキ、マユミ、モミ、ヤマボウシ、ヤマモモ、ライラック、リョウブなど | オオデマリ、カシワバアジサイ、ガマズミ、カンツバキ、キンシバイ、クチナシ、シモツケ、ニシキギ、ハコネウツギ、ヒラドツツジ、フジ、ミツマタ、ユキヤナギなど |
中庸樹 | イチジク、エゴノキ、コバノトネリコ、コブシ、サワラ、シデコブシ、スギ、ツリバナ、ナツツバキ、ビワなど | アベリア、カルミア、サンショウ、トサミズキ、バイカウツギ、ビョウヤナギ、ミツバツツジ、ムラサキツツジ、ロウバイなど |
陰樹~中庸樹 | シラカシ、ドイツトウヒ、ヒメシャラなど | アジサイ、ガクアジサイ、シロヤマブキ、ナンテン、ヒイラギナンテン、ヒカゲツツジ、ヒサカキ、ヤマブキなど |
陰樹 | イチイ、イヌツゲ、クロモジ、ヒイラギ、ヒイラギモクセイ、ヒノキなど | アオキ、アセビ、ジンチョウゲ、センリョウ、マンリョウ、ヤツデ、ヤブコウジ、ヒューケラなど |
このように、植物の特性を理解した上で、庭つくりにおける植栽のプランニングを考えましょう。そうすることで、あなただけの個性豊かな庭を作り上げることができます。
植物の効果を充分に生かした植栽計画
植物には多くの機能があり、植栽をすることによって次のような効果が期待できます。
- 生活にうるおいを与える
- 空気をきれいにする
- 快適な気候を保つ
- 生き物と共存する
植栽計画をたてるうえで、植物の機能をうまく活かした配置をすることが必要です。そうすることで、私達の生活を快適にする空間を作り出すことができます。
夏は涼しく、冬は暖かく、快適な暮らしを与える植栽
リビングに心地よい陽が当たるのは、気持ちがいいものです。しかし、夏の直射日光が室内へ侵入すると、室温の上昇を招き不快になります。最近の住宅は気密性が高いため、いったん室温が上がるとそのまま熱がこもる傾向にあります。逆に、冬場は室内に日が差し込まないないと薄暗いばかりか室温も上がらず快適な暮らしを送ることはできません。そこで、植栽を有効に活用することで夏は涼しく、冬は暖かく快適な暮らしが手に入り、冷暖房の効率もアップし省エネにも貢献できます。
落葉樹が日差しをコントロールする
夏の強い日差しは不快なものですが、冬には必要なものです。
したがって、日差しの強い南側や西側の窓の前に、落葉樹を植えることで、夏の強い日差しをさえぎり、冬は落葉してあたたかな陽を室内に招き入れてくれます。
夏の日差しをさえぎり、冬の日差しを招き入れるには、落葉樹を植えるのが基本
植物により夏の強い日差しをさえぎる
落葉樹が葉を落とし日差しを与える