日本庭園とは、自然の素材をうまく利用した日本伝統の庭園様式です。
池を中心にして、築山を築き自然石や草木を配し、四季折々に鑑賞できる景色を造るのが一般的な構成です。この築山は山を、石組(いわぐみ)は滝を、池は大海を模しており日本庭園は、自然を凝縮して庭の中に表現したものといえます。
“日本庭園”と聞くと、お寺や老舗旅館の庭を思い浮かべる人も多いでしょう。そして、「あんな立派な庭は自宅には無理だ」とか「今どき日本庭園なんて」とか思うかもしれません。”日本庭園”という表現が、お寺や老舗旅館の立派な庭を思い浮かべてしまうのでしょう。
それでは、”和風の庭”という言い方をしたらどうでしょうか。この表現なら、我が家にも取り入れることができそうな感じがしませんか? 「日本庭園だと敷居が高いけれども和風の庭なら我が家にも取り入れられそう」と思って頂ければ幸いです。
ここでは、日本庭園の基本を紹介します。これをもとに、あなたに合った”和風の庭”を考えてみてはいかがでしょうか?
自然石をうまく使う
日本庭園(和風の庭)には、自然石は欠かせない素材です。自然石とは、天然に産出された自然のままの石です。天然の岩石を加工せずに庭の要所に配置することで、石の存在感やエネルギーを放つことができ、空間の魅力がぐんと増します。
古くから日本には、八百万(やおよろず)の神がいると信じられ、自然石にも神が宿るとされています。庭に自然石を据えることで、石の持つエネルギーを感じることができるだけでなく、見る人に対し癒しも与えてくれます。
景石の基本的な据え方
景石とは、「天然の岩石を加工せずに庭の要所に配置したもの」のことをいいます。これらは、「山」「滝」「流れ」などを模しており、自然の風景(景色)を庭に取り入れたため景石と呼ばれます。
景石を据える前に、まず据えようとする石の形や表情をよく観察して、「どのように据えたらその石の美しさを最大限に生かし、力強さを表現することができるか」をイメージすることが大切です。
具体的には、「どの部分を天端(上になる部分)にして」「どこを見つき(正面になる部分)とするか」「どれくらいの高さに据えるか」の3点を見極めるということです。
そして、どっしりと安定感があるように据えることが大切になります。根入れをなるべく深くすることで、末広がりに石が大きく見え安定感を与えることができます。逆に根入れが浅すぎると、石が浮いたように見え不安定感を与えることになるのです。どう据えても根がきれてしまったり、あごなどの石の欠点が見えたりしてしまう場合は、その部分に添え石をあてがう、もしくは下草などを植えることで欠点を補うことができます。
石組の手法
景石には、1石で全体のバランスを取って据える方法と、複数の石を組み合わせて据える方法があります。複数の石を組み合わせることを石組(いわぐみ)と言います。
石組の基本
石組には、基本的なルールがあります。そのルールを学ぶことで、石組で失敗しないようになります。
以下に石組の基本的なルールについて記します。
- 同じ高に石を据えない。
- 同じような形、大きさの石を用いない。
- 一直線上に据え付けない。
- 山石、川石、海石を一緒に用いない。
- 色彩の全く異なる石を一緒に用いない。
- 庭全体のバランスを考える。
2石組
2石組とは、2個の石を組み合わせて据えることをいい、石組の基本になります。
大きさと、形の異なる石を選び、大きく存在感のある石を”主石”とし最初に据えます。次に2石目を配置します。この時、向きや高さ、傾きを変えバランスよく据えます。そうすることで、その石の発する”氣勢”(エネルギー)を十分に表現することができます。どちらの石も主張するのではなく、1石を主とし、もう1石はそれを引き立たせる脇役とすることで互いの存在感が増し安定感のある石組みとなるのです。
3石組
3石組は、「2石組に1石を加えたものであり、3つの石を組み合わせたもの」と考えていいでしょう。主の役割をもつ石と従の役割をもつ石、その2石をさらに調和させ添える石、これら3石がひとまとまりになることで存在感・安定感をひきだします。
3石は直線上ではなく、不等辺三角形になるように据えるのが基本です。
3石組も2石組同様に各石の氣勢をよく見て、バランスよく組むように心掛けます。
5石組以上
5石、7石…と多数の石を組む場合でも、1石、2石組、3石組を基本単位として、組み合わせることによってまとめられます。
例えば5石組の場合は、「3石組+2石組」「3石組+1石+1石」「2石組+2石組+1石」といったように組み合わせます。7石組であれば「3石組+3石組+1石」「3石組+2石組+2石組」などの組み合わせが考えられます。
庭はこうした複数の石組みの集合体であるといえます。
ちなみに、2石組以外の偶数で石組することはほとんどありません。
景石の種類
景石は、「火成岩」「堆積岩」「変成岩」の3つの分類からなり、岩石名や石材名などからいくつかの種類に分けられます。また、産地によっても特長があり使用用途にも違いがあります。
主な景石の種類と産地についてまとめました。
分 類 | 岩石名 | 石材名 | 色調 | 用途 | 産地 | |
火成岩 | 深成岩 | 花崗岩 | 滝石 | 白 | 景石など | 石川県 |
木曽石 | 黄褐色 | 景石、踏み石、飛び石など | 岐阜県 | |||
伊勢御影 | 白 | 石積み・飛石など | 三重県 | |||
白川石 | 白 | 石造品など | 京都府 | |||
丹波鞍馬 | 茶 | 沓脱石・飛石など | 京都府 | |||
閃緑岩 | 甲州鞍馬石 | 錆 | 沓脱石・飛石など | 山梨県 | ||
鞍馬石 | 錆 | 沓脱石・飛石など | 京都府 | |||
火山岩 | 安山岩 | 鳥海石 | 灰褐色 | 景石など | 山形県 | |
根府川石 | 茶褐色 | 沓脱石・飛石など | 神奈川県 | |||
丹波石 | 茶褐色 | 張石・飛石など | 兵庫県 | |||
玄武岩 | 六法石 | 灰褐色 | 乱杭など | 静岡県長崎県 | ||
堆積岩 | 砂岩 | 多胡石 | 黄褐色 | 景石・石積など | 群馬県 | |
石灰岩 | 琉球石灰石 | 乳白色 | 門柱、塀など | 沖縄県 | ||
凝灰岩 | 大谷石 | 景石・石積など | 栃木県 | |||
変成岩 | 結晶片岩 | 三波石 | 緑・赤など多色 | 景石・石積など | 群馬県 | |
秩父石 | 緑・赤など多色 | 景石・石積など | 埼玉県 | |||
天龍石 | 緑 | 景石・石積など | 静岡県 | |||
揖斐川石 | 緑・紫など多色景石・石積みなど | 景石・石積など | 岐阜県 | |||
吉野川石 | 緑・紫など多色景石・石積みなど | 景石など | 奈良県 | |||
紀州青石 | 緑 | 景石・石積など | ||||
阿波青石 | 緑 | 景石・石積など | ||||
伊予青石 | 緑 | 景石・石積など | ||||
椎葉石 | 緑・紫など多色 | 景石・石積など | ||||
大理石 | 秋吉大理石 | 建築材料 | 山口県 |
採石地による庭石の分類
庭石には採れた地域によって違いがあります。大きく分けて「山石」「川石」「海石」の3つに分けられます。
以下にこの3つの特長を記します。
- 山石
山石とは山地の表面または地中から採石されるもので、一般的には角ばったものが多いです。
表面は荒く、コケなどが付きやすくなっています。
例:木曽石、生駒石、丹波石など
- 川石
川石は、山地から豪雨,山崩れなどによって川に落ち込んだ岩石が激しい水流のよって長い年月をかけて移動した石で、角がとれてまろやかなものが多いです。
例:吉野川石、揖斐川石、秩父石など
- 海石
海石は海岸近くで採掘される石で、海波に洗われ貝殻などが付着したものもあります。
例:瀬戸御影石、伊豆海石など
景石を使用するまとめ
ここまで、景石の据え方や種類について述べてきましたが、「実際どんな石を使ったらよいのか?」と疑問をもたれたかと思います。そこで、改めて庭石を利用する際の基本をまとめます。
- なるべく地元で採掘される石を使う
- 同じ種類の石で統一する
- 大小取り混ぜる
- 同じような形の石ばかり用いない
- 2石組以外偶数で据え付けない
- 1直線にならないように据え付ける
- 安定感を持たせるよう根入れを浅くしない
庭について考える際には、以上に記した基本を頭に入れておきましょう。
狭い庭でも、景石を据えることで遠近感や立体感が得られます。必ずしも、多くの石を使う必要はありません。1石でも2石でも景石を据えることで庭が引き締まり、落ち着きが出ます。また、自然石の持つエネルギーを感じることができます。
ぜひ、ご自宅の庭に自然石を取り入れて、石から放たれるエネルギーや癒やしを感じてください。
飛び石、延段(のべだん)を庭に打ち、落ち着いた庭にしよう!
飛び石は、もともとは露地口(ろじぐち、庭の入口)から茶室までの歩行のときに、土や雨の雫などで着物や草履(ぞうり)が汚れないようにするために庭に打たれたものです。また飛び石は、安土桃山時代から露地に用いられたといわれています。
本来、飛び石には面の平らな自然石を用います。しかし、面が平らで手頃な大きさの自然石が手に入りにくくなったため、現在では面を平らに加工された石を使うようになりました。ただ、何といっても自然のものには趣があり、できれば加工していない自然石を使って欲しいものです。
基本的な飛び石の打ち方
飛び石を据え付けることを”飛び石を打つ”といいます。
一般的な飛び石の打ち方には、以下に記す6つのパターンがあります。
直打ち | 石を直線状に配した打ちかた。 |
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二連打ち | 2石が直線状につながる打ちかた。 |
三連打ち | 3石が直線状につながる打ちかた。飛石の動線に変化を与える配石。 |
二三連打ち | 二連と三連を組み合わせた打ちかた。動線の方向を変えたり、景観的な変化を求めた配石で「二三崩しふみくずし」とも呼ぶ。 |
千鳥打ち | 1石ごとに右・左とジグザグに打ち、歩みに無理なく配した飛石。 |
雁打ち(雁掛け) | 3~4石くらいごとに、ジグザグに左右に振り分けた打ちかた。空を渡る雁の群れに似ることから名がある。 |
延段(のべだん)を設けよう
延段とは、切石(方形に切り出した石)や五郎太石(小ぶりの丸みを帯びた自然石)、張石(厚みのあまり無い石でセメントで貼り付ける石:鉄平石や丹波石など)などと組み合わせた短冊形の石敷きの通路のことをいいます。園路に飛び石を打つ際に、飛び石が長く続くと景色が単調になり風情がなくなるため、中間に用います。
延段の種類
延段には「真の延段」「行の延段」「草の延段」という3つの種類があります。以下それぞれについて解説します。
- 真の延段
角状や整形した石のみを使用した延段で、3種の中では一番格調の高い様式です。基本的に直線を基調としており、堅いイメージを与えます。
- 行の延段
角状の石と丸みを帯びた自然の石を交えて敷かれた延段で、真の延段と草の延段の中間のものです。真の延段にくらべると少しくだけた感じを与えます。
- 草の延段
自然石のみを使用した延段です。素朴で自然風味あふれやわらかいイメージを与えます。
このように延段には、真・行・草の3種類があります。
この真・行・草は、書道にも真書(楷書)・行書・草書とあるように、華道・茶道・庭園・俳諧・絵画など、日本文化の色々な場面に使われています。
沓脱石(踏石)
日本の家屋は、「庭と座敷が一体である」という考えから、南側には掃き出し窓を設けて自由に出入りするようにしました。日本家屋は、湿気を避けるために床を高く設定しています。そこで、出入りが楽にできるよう天端の平らな石を置くようになりました。これを沓脱石(くつぬぎいし)と言います。
沓脱石は、建物と庭をつなぐ重要な役石でその延長に飛び石があります。
飛び石、延段(のべだん)についてまとめ
ここまで飛び石、延段について説明しましたが、これらは基本であるだけで、以上に説明したことにとらわれる必要はありません。とにかく大切なことは、「歩きやすいこと」これに限ります。
庭とのバランスを考え、単調にならないよう注意する必要があります。
蹲踞(つくばい)
露地において、手や口を清めるための水を入れる器を「手水鉢(ちょうずばち)」といい、それに役石(やくいし)を加えた全体の空間を「蹲踞(つくばい)」といいます。役石とは、それぞれに役割を持った石のことをいいます。
日本では、古くから神社に参拝するときには、水で心身を清める習慣がありました。清らかさを好む日本人が、庭に取り入れ茶室に入る前に手を清めるために使用するようになりました。
蹲踞(つくばい)の役石
以下に、役石の役割について解説します。
手水鉢(ちょうずばち)
水鉢(みずばち)ともいいます。茶会の際に手や口を清めるために水をはった鉢のことを手水鉢いいます。
前石(前石)
「踏み石」「袴すり石」ともいいます。手水鉢を使う際に乗る役石で、この石の上でしゃがみ手と口を清め、そして方向を変えるため平らで大ぶりの石が適しています。
飛び石より若干高く据え付けます。
湯桶石(ゆおけいし)
冬の茶会の際、湯を桶に入れて水鉢の横に置いて客に使ってもらうことがあります。この桶を置くための役石を湯桶石といいます。この湯桶を置くために表面が平らな石が適しています。また、役石として目につきやすいため形の良い石を選びましょう。
湯桶石の高さは、前石より高く据え付けます。地面より10cm~15cmぐらいの高さで据えると良いとされています。
手燭石(てしょくいし)
夜の茶会際、手水鉢の手元を照らすための手燭を置くための役石を手燭石といいます。
手燭石の高さは、湯桶石より高く据え付けるのが一般的です。
水門(すいもん)
「海」ともいいます。手水鉢と役石に囲まれた低い部分のことを「水門」「海」と言います。こぼれた手水を受けるために、砂利などを敷き土中に浸透させます。
※茶道の流派により呼び名、位置など異なる場合があります。
蹲踞(つくばい)で使う道具
柄杓(ひしゃく)
手を清めるために水を汲むための道具を柄杓と言います。スギやヒノキでつくられる。
杓架(しゃっか)
柄杓を架けておくために、水鉢の上に差し渡して置かれる道具を杓架といいます。水鉢の形状や風情などに応じて様々な形状がありますが、使われない場合もあります。
筧(かけひ)
水鉢に水を導くための竹でできた樋のことを筧といいますが、本来は亭主が水鉢に水を満たすものであり使われていませんでした。明治以降の流行により使われるようになりました。
灯籠(とうろう)
灯籠は元来、寺院や神社であかりを灯すために設置されたものでした。のちに、一般の家庭でも茶会が行われるようになると、園路を照らしたり、蹲踞(つくばい)の手元を照らしたりするために灯籠を置くようになりました。
灯籠の種類
一般的に使われる灯籠の種類には、「立灯籠」「雪見灯籠」「埋け込灯籠」「置き灯篭」があります。以下に、それぞれの特徴を解説します。
立灯籠
地輪(ぢりん(基礎))があるのが特徴の灯篭です。その上に柱・受鉢・火袋・笠・玉を構成します。
立灯籠には、春日型、柚木型、御苑、平等院などがあります。
雪見灯篭
雪見灯篭は、笠が大きく、3~4本の脚からなるのが特徴の庭園に使われる灯籠です。もともとは池など水面を照らすものとして作られました。笠が大きいのは、灯りを反射して水面を照らすためです。この灯籠は背が低く、小ぶりのため池のある無しにかかわらず、一般の住宅にも多く利用されるようになりました。
雪見灯篭には、丸雪見・角雪見などがあります。
埋け込み(生け込み)灯籠
地輪(基礎)がなく、柱を埋め込んで据える灯籠です。埋め込む深さにより高さが調節できるため、設置場所に適した高さに据えることができます。立灯籠に比べコンパクトなため、一般の住宅でも多く使われるようになりました。
埋け込み灯籠は種類が多く、織部灯籠が有名でほかにも、六角灯籠や八角灯籠、朝鮮灯籠、舟形灯籠、などがあり、またオリジナルで制作されたものも数多くあります。
置き灯籠
玉、笠、火袋、台などの2~5つで構成され柱はなく、庭石などの上に据え付けます。比較的小型で、主庭のみならず坪庭や玄関先など幅広く利用できます。
置き灯籠には、寸松庵、岬、玉手、角置などがあります。
今回は、蹲踞、灯籠について説明してきました。
本来、蹲踞・灯籠ともに必要であるがゆえに生まれてきました。ただ、現代においては本来の使用目的とは異なり、実用というよりオブジェとして設置されるようになっています。
天然石で作られた蹲踞・灯籠には風情があり、年を増すごとに趣を増します。本来の用途を理解したうえで、自由な発想で庭に取り入れてみてはいかがでしょうか。